退職後も健康保険が使える制度
健康保険には「協会けんぽ」「組合健保」の健康保険、国民健康保険、船員保険、後期高齢者医療制度の4種類がありますが、そのうちの「協会けんぽ」「組合健保」の健康保険が、会社に勤める人の健康保険です(パートの方など、国民健康保険の方もいらっしゃいます)。そして、その「協会けんぽ」「組合健保」の健康保険には、任意継続制度があります(船員保険にも似た制度はあります)。
この制度は、会社に勤めていた人が退職しても、退職後2年間は会社にいたときとほぼ同様の保険給付が受けられる制度。退職後に無職になったり自営業を始めた場合、普通は国民健康保険に加入するか、家族の健康保険の被扶養者になるしかないところ、任意継続制度があるおかげで、会社で入っていた健康保険か国民健康保険か家族の被扶養者になるかを選択できるのです。
ただし、任意継続制度を選んだ場合、自分で負担する保険料は会社にいたときの2倍になりますし、病気やケガで会社を休む場合に出る傷病手当金、出産で会社を休む場合に出る出産手当金は、一定の場合を除き、受け取ることができません。この制度を選択するメリット、デメリットをよく検討し、後悔のないよう、決定するとよいでしょう。
ちなみに、任意継続制度を利用すると任意継続被保険者を呼ばれ、その被扶養者の範囲は、会社に勤めていたときと同じです。
昔はお得だった任意継続制度
そもそも任意継続制度は国民健康保険がなかった大正15年に制定され、退職後に入る健康保険がなかった人を救済するため、退職後6か月間、会社で入っていた健康保険を利用できる制度でした(昭和51年に期間が2年に延長されています)。
国民健康保険ができてからは任意継続制度の意味合いは薄くはなりましたが、昭和56年から被扶養者の入院時の医療費の2割負担、昭和59年から被保険者本人の医療費の1割負担という優遇措置があり、国民健康保険の3割負担よりは安いため、平成15年に3割負担となるまでは、任意継続制度はお得な制度でした。
しかし現在は、得かどうかは個人によって変わってくるため、この制度の見直しも議論されています。
特例退職被保険者制度との違い
任意継続制度を考えるにあたり、ごく少数の人に限り、特定健康保険組合の特例退職被保険者になるケースがあるので注意が必要です。
その特例退職被保険者とは、以下の基準を満たす人のうち、特定健康保険組合の規定で決められた人のこと。
ポイント
- 老齢厚生年金の支払いを受けている人。
- 65歳の誕生日の前日を含む月の月末を過ぎていない人(例・誕生日が4月1日の場合は前日の3月31日が月末になります)。
- 厚生年金の被保険者や共済組合の組合員などの期間が通算して20年以上あるか、40歳以降の期間が10年以上ある人。
該当するかもと思った人は、所属する健康保険組合に聞いたほうがいいでしょう。というのも、任意継続被保険者は2年間しかなれませんが、特例退職被保険者は74歳までその資格を失わないからです。
また、特例退職被保険者の被扶養者の条件は以下の通りです。
ポイント
- 同居し、特例退職被保険者に扶養されていること。
- 65歳の誕生日の前日を含む月の月末を過ぎていない人。
- 妻、夫、子など3親等以内の人。
任意継続制度を利用するには
制度を利用するかの検討の結果、国民健康保険ではなく任意継続制度の利用を決めた場合は、制度を利用するための条件や手続きの方法、必要書類を把握することが大切です。
任意継続制度を利用できる条件
健康保険の任意継続制度を利用するためには、退職日までに2か月以上継続して健康保険に入っていること、退職日の翌日から20日以内に申請することが条件。なお、退職していない人が、勤務時間などの関係で健康保険の資格を失った場合でも、任意継続制度を利用可能です。
任意継続制度の利用手続きと必要書類
退職日の翌日から20日以内に「健康保険任意継続被保険者資格取得申出書」を協会けんぽに提出します。なお、組合健保の組合員の人は、その所属する健康保険組合で手続きを行います。
任意継続被保険者の保険証について
利用手続きを終えてから保険証が届くまで時間がかかりますが、その間も、任意継続被保険者として診察を受けられます。また、任意継続被保険者の資格を失ったときは、速やかに、協会けんぽに保険証を返却してください。
任意継続被保険者の保険料
退職した時点でもらっていた給料を基準に決定するので、退職した月に支払った保険料の2倍になります(在職中は事業主が保険料の半分を支払っているため)。ただし、協会けんぽの場合は加入している人の標準報酬月額(給料を基準に決定する月額)の平均を上限に、組合健保の場合は組合員の標準報酬月額の平均の範囲内で規約で定めた額を上限にするため、給料の高かった人は2倍より少ない保険料になります。
なお、保険料の納付は、月初めに送付される納付書とともに、その月の10日までに協会けんぽに入っていた人は協会けんぽで、組合健保の人は健康保険組合で行ってください(6か月分、1年分を前納できる制度もあります)。
任意継続被保険者でなくなる場合
以下の場合は、任意継続被保険者ではなくなります。
ポイント
- 2年間が過ぎたとき。
- 保険料を滞納したとき。
- 新しい会社で健康保険に入ったとき。
- 75歳の誕生日。
- 死亡したとき。
新しい会社の場合と75歳の場合は「任意継続被保険者資格喪失申出書」の提出が必要。死亡した場合は「埋葬料(費)支給申請書」の提出が必要です。
任意継続を受けると良い点(メリット)
任意継続制度を利用した場合のメリットは、以下の通りです。
ポイント
- 国民健康保険料は被扶養者の数に応じて保険料が増えるが、任意継続は被扶養者の数にかかわらず、保険料が同じ。
- 給料が高い人の場合、任意継続は健康保険加入者の平均額を上限に保険料を計算するため、国民健康保険より保険料が安くなる可能性が高い。
- 退職まで継続して1年以上健康保険に入っており、現に傷病手当金や出産手当金をもらっている場合、残りの日数分の手当金をもらえる。
「組合健保」の健康保険の場合は、医療費が一定額以上高額になった場合に、超えた分を健康保険組合が負担する「付加給付」の制度がある。
任意継続を受けた場合の悪い点(デメリット)
任意継続制度を利用した場合のデメリットは、以下の通りです。
ポイント
- 会社都合退職の場合、国民健康保険の保険料が100分の30になる可能性があり、その場合は任意継続より国民健康保険のほうが安い。
- 任意継続にしてから2年間は、勝手に国民健康保険にしたり、家族の被扶養者にはなれない。
- 保険料が納付されない場合、納付期限の翌日から任意継続被保険者ではなくなる。
- 組合健保の組合員が退職し、遠方に引っ越したとき、健康保険組合が遠くなるため、手続きが面倒になる。
なお、国民健康保険の保険料は市区町村によって変わってくるため、任意継続制度を利用するかどうかは、市区町村役場の担当課とも相談したほうがいいでしょう。